01 展覧会について
ポーラ美術館は、アメリカの現代美術を代表するアーティスト、ロニ・ホーンの個展を開催します。
本展は、国内の美術館におけるホーンの初個展となります。
テムズ川の水面やアイスランドの温泉、島の地図、水鏡を思わせるガラスなど、ロニ・ホーンの作品の多くは自然と密接に結びつきながら、極めてシンプルに削ぎ落された形式で展開されています。作品は、写真、彫刻、ドローイング、本など多岐にわたりますが、一つの概念が多様な作品へと形を変えて現れる様は、環境や周囲との関わりによって姿を変える、「水」の性質を想起させます。東洋思想においては人間の精神のあり方や無常を表す水や川はまた、展覧会のタイトルにもある通り、ホーンがしばしば作品のモティーフやテーマとして用いるものです。
本展では、近年の代表作であるガラスの彫刻作品をはじめ、1980年代から今日に至るまでの約40年間におよぶ実践の数々を紹介しながら、水のようにしなやかに多様な解釈を受け入れる彼女の作品の あり方を探ります。価値観や「正しさ」がめまぐるしく入れ替わるこの時代において、周囲に惑わされず、 川のように静かに絶えず本質を見つめながら制作を続ける彼女の作品と姿勢は、私たちに強く生きるヒントと、Reflection(内省)の時間を与えてくれるでしょう。
02 みどころ
2009-2010年にテート・モダン(ロンドン)とホイットニー美術館(ニューヨーク)で大規模な展覧会を開催して注目を集め、その後も現代美術の最前線で活躍し続けるアーティスト、ロニ・ホーンを、国内の美術館としては初めて紹介する展覧会です。また2002年の開館以来、ポーラ美術館における大型企画展としては初めて、同時代の作家を単独で取り上げる機会となります。
本展では、1980年代の初期の作品から、代表作である写真シリーズ《あなたは天気 パート2》(2010-2011年)のほか、モティーフの繰り返しによって徐々に変化してゆくドローイング作品など、様々な作品を通じて「連続と差異」という彼女の一貫した問題意識を浮き彫りにします。また、高さ約3メートルの大型の平面作品、 近年の代表作であるガラスを用いた立体作品9点など、ロニ・ホーンの豊かな制作をダイナミックに 辿ります。
ロニ・ホーンは初期から一貫して「自然」をモティーフに作品を制作しています。特に彼女が偏愛するアイスランドの、火山と氷河が生み出した荒々しい風土からは、ことさら強いインスピレーションを受けて いますが、火山列島である日本、古来の温泉地である箱根は、アイスランドと多くの共通点を有しているでしょう。本展では、仙石原の豊かな森を望む展示室に加えて、美術館屋外の森の遊歩道にも大きなガラス彫刻作品を展示します。
本展限定の展覧会オリジナル・グッズをBEAMS DESIGNがプロデュース。ロニ・ホーンの作品や世界観をとり入れたオリジナルTシャツ、トートバッグ、マグカップなど、この機会にしか手に入らない限定グッズを多数展開予定です。9月18日(予定)より、ポーラ美術館ミュージアムショップと、美術館公式オンラインショップにて販売いたします。
03 主な展示作品
物理学的には「固体」でも「液体」でもないガラスの曖昧さは、ホーン作品の両義性、多義性を象徴するものでしょう。水を湛えた器のように見えるこの作品は、実は数百キロものガラスの塊です。気の遠くなるような時間をかけて、ガラスがゆっくりと鋳造される過程は、透き通った水が器に静かに満ちてゆく様を思わせると同時に、溢れ出る灼熱のマグマが流れて固まり、地面を形成したアイスランドの大地や地層をも想起させます。窓のある開放的な展示室と、屋外の森に設置される計9つのガラス彫刻は、周囲を映し出しながら、また巨大なレンズとして光を拡散しながら、静と動、穏やかさと荒々しさ、表層と深淵、透明感と重量感といった、相反する性質を内包しています。
ドローイングは、ホーンにとってもっとも身近な表現手段です。「日々呼吸するように」実践されるドローイングは、1982年から今日まで一定して継続される唯一の形式です。抽象的な線や形、あるいは引用された言葉などモティーフは様々ですが、それは手の運動であるとともに、彼女の思考や記憶と強く結びついています。本展の一室を占める7点の巨大なドローイング作品は、高さ約3メートルにおよびます。スケールに圧倒されながら細部に目を凝らすと、手書きの記号や印、紙の切れ目によって、それが一度ばらばらに切断され、繊細な手作業によって再び組み合わされたものであることが分かります。
10代の頃、父親からペトリのカメラを与えられて以来、写真はホーンにとって重要なメディアです。真っ直ぐな視線を投げかける100枚ものポートレートが、展示室の四方を取り囲むこの大作は、アイスランドの温泉で、6週間にわたって女性の表情を記録し続けたものです。「曇った顔」「気が晴れる」「霞を食う」「称賛の雨」など、私たちは人間のあり方や経験を気象に見立てています。時に激しく時に穏やかに、天気のように移り変わる、一人の女性が見せる唯一無二の100の表情を追いながら、同じように見えるものの中にこそ、絶え間ない変化が潜むことに私たちは気付くのです。
言語や文学はホーンを形づくる重要な要素であり、作品にも多くのテキストが引用されます。ポー、ソロー、ヴァレリー、リルケ、カフカ、オコナー、など、引用元は実に豊富ですが、中でもアメリカを代表する詩人、エミリ・ディキンスンは作家にとって特別な位置を占めています。《エミリのブーケ》は、ディキンスンが書いた手紙の言葉の中から選ばれたシリーズです。しかしながら、引用された言葉は側面から見ると言語の体をなさず、文字は純粋な「形」として解体されています。このような「形」の自己反復は、活動の初期にドナルド・ジャッドらを通じてミニマリズムの影響を受けたホーンの背景を窺わせるものです。
04 作家プロフィール
ロニ・ホーン/Roni Horn
1955年生まれ、ニューヨーク在住。写真、彫刻、ドローイング、本など多様なメディアでコンセプチュアルな作品を制作。1975年から今日まで継続して、人里離れた辺境の風景を求めてアイスランド中をくまなく旅してきた。この中で経験した「孤独」は、彼女の人生と作品に大きな影響を与えている。
近年の主な個展は、ポンピドゥー・センター(パリ、2003年)、テート・モダン(ロンドン、2009年)、ホイットニー美術館(ニューヨーク、2009-2010年)、バイエラー財団(リーエン、 スイス、2016年、2020年)、グレンストーン美術館(ポトマック、アメリカ、2021年)などで開催。
05 展覧会情報
ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?
Roni Horn: When You See Your Reflection in Water, Do You Recognize the Water in You?
- 会期
2021年9月18日(土) ~ 2022年3月30日(水) 会期中無休
- 会場
ポーラ美術館 展示室1, 2 遊歩道
- 主催
公益財団法人ポーラ美術振興財団 ポーラ美術館
- 後援
アメリカ大使館
- 協力
Hauser & Wirth/ヤマト運輸株式会社