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展覧会構成/第1部のおもな新収蔵作品
ベルト・モリゾ 《ベランダにて》
1881‐1884年にフランスの印象派の画家ベルト・モリゾ(1841-1895)が家族で滞在したパリ郊外、セーヌ河沿いのブージヴァルで1884年の夏に制作された作品。この時期の作品には、一家の穏やかで幸福な生活の様子が見られる。本作品でも陽光溢れる邸宅のサンルームで、机に向かい花らしきものを手にしている画家の一人娘ジュリー・マネの姿が、明るくやわらかな色彩と素早い筆致で描かれている。窓からは、美しい樹々の緑と隣家の建物や屋根がのぞいている。本作品は、身近な人物や風景を主題として制作したモリゾの典型作であると言えるだろう。モリゾの他界後、娘ジュリーがドガ、モネ、ルノワール、マラルメらの協力を得て開催した1896年のデュラン=リュエル画廊での追悼大回顧展に出品された。
松本竣介 《街》
1930年代後半から第二次世界大戦後の激動の時代に、抒情豊かな風景画や人物画を数多く残した洋画家、松本竣介(1912-1948)。彼が好んで主題に取り上げたのが街の風景であった。本作品の画面中央右には街路を行き交う多様な人々の営みが自由な輪郭線によって描かれ、その周囲には無機質な建造物や街路、線路、自転車などが重力とは無関係に浮遊するかのように散りばめられている。青色を基調とする夢幻のような街の空間には、竣介の作品には珍しく地から天へと伝播する波動のような紺色の縞模様や、暗緑色に塗りつぶされた輪郭のない類円形の影がある。描画の意図は明らかではないが、それらは若くして音を失くした画家が、研ぎ澄まされた視覚によって変わりゆく都市の喧騒を捉えた証なのかもしれない。