01 展覧会について
HIRAKU Projectは、過去にポーラ美術振興財団の助成を受けた作家を紹介する展覧会シリーズです。第14回目となる今回は、国内外で数多くの展覧会を開催し、国内の主要な美術館に作品が収蔵される、日本を代表する作家、丸山直文をご紹介します。
丸山は1990年代の活動初期から一貫して絵画を描き続けています。カンヴァスを立てて描く伝統的な絵画の制作法とは異なり、丸山は、水を含ませた綿布を床に置き水平な状態で作品を描きます。にじみやぼかしを意図的に取り入れた画面の中でかたちの境界は曖昧に揺らぎ、アクリル絵具の鮮やかな発色とともに、判然としない夢のような世界を生み出しています。
今回の展覧会は、「水を蹴る―仙石原―」と名付けられました。水たまりを蹴り上げると、水面に映った静寂な世界が崩れてしまうように、私たちの足場がいかに不安定で、見知った世界が一変してしまう可能性と常に隣り合わせであるか。震災、パンデミックや気候変動を経験した私たちは、その事実を改めて目の当たりにしました。本展のタイトルには、世界の、あるいは私たち自身の不確かさに対する丸山の意識が顕れています。
制作の過程においては「水」が極めて重要な役割を担いながら、丸山が「水」を意図的に絵画に描き始めたのは近年のことです。水面を描いた作品群に加えて、本展ではこの箱根・仙石原の地をテーマに、当館を取り囲む豊かな森の取材から生まれた新作を発表します。赤褐色の美しい幹肌が特徴的なヒメシャラの木々は、湿潤な土壌でしか育ちません。手で触れると、極めて薄い幹皮を通して冷たい水を感じるこのヒメシャラの感触は、さながら表面を薄いヴェールに覆われたかのような丸山の絵画のあり方を想起させます。
展覧会の会場構成は、丸山と親交の深い建築家・青木淳が担当します。青木は、丸山の絵画からインスピレーションを得て、重ね合わせた布によるモアレを水面に見立てた会場構成を構想しました。仙石原は太古、湖の底にあった土地です。丸山と青木がつくり上げた、輝く薄いヴェールに包まれた展示空間は、水面を歩くような少しの不安とともに、誰も知らない世界へと私たちをいざなうでしょう。
02 作家プロフィール
丸山 直文(まるやま・なおふみ)
1964年新潟県生まれ、東京都在住。1990年代以降の日本の重要なペインターの一人として第一線で活躍を続ける。2008年芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。武蔵野美術大学造形学部油絵学科特任教授。主な展覧会に主な展覧会に「水を蹴る」シュウゴアーツ(東京、2022)、「流」ウソンギャラリー(大邱、2017)、「GROUND2 絵画を語る−⾒⽅を語る」武蔵野美術⼤学美術館図書館 (東京、2016)、「ニイガタ・クリエーション」(新潟、2014)、「浮舟」豊田市美術館 (愛知、2011)、「丸山直文–後ろの正面」目黒区美術館 (東京2008)など。2023年元旦には、最新作が日本経済新聞の紙面を飾った。
青木 淳(あおき・じゅん)
建築家。1956年、横浜生まれ。1982年、東京大学大学院を修了。1991年青木淳建築計画事務所(2020年、ASに改組)を設立。1999年、潟博物館の設計で日本建築学会賞(作品)を受賞。2004年、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。2019年、東京藝術大学教授。2021年、京都市美術館(通称:京都市京セラ美術館)の設計で2回目の日本建築学会賞(作品)を受賞。2019年4月より同館館長。
03 作品紹介
04 展覧会情報
HIRAKU Project Vol.14
丸山 直文 水を蹴る―仙石原―
- 会場構成
青木 淳
- 会期
2023年1月28日(土)~7月2日(日)
- 会場
ポーラ美術館1F アトリウム ギャラリー
- 主催
公益財団法人ポーラ美術振興財団 ポーラ美術館
- 協力
シュウゴアーツ
- 企画協力
AS、安東陽子デザイン、株式会社岡安泉照明設計事務所