怪しげな動物が裸婦を取り囲むというモティーフは《私の夢》(1947年、新潟県立近代美術館・万代島美術館蔵)などにみられますが、本作品のような異形の人物が女性を取り巻く作例はほとんどありません。この作品は登場人物の顔や手指の表現に特徴がみられます。フジタが敬愛していたレオナルド・ダ・ヴィンチにも異形の頭部を描いた素描があり、ほかにネーデルランドのクエンティン・マサイス、ヒエロニムス・ボスやスペインの巨匠フランシスコ・デ・ゴヤにも同様の表現があります。また、手指の形に特徴のある人物は、ドイツ・ルネサンスの画家マティアス・グリューネヴァルトの絵画を想起させます。背景にある廃墟は、フジタのキリスト教をモティーフにした作品にしばしば登場します。このような作品はキリスト教美術をはじめ、イタリア及び北方ルネサンスの絵画、スペインの絵画などヨーロッパの美術に精通していたフジタならではのものといえるでしょう。