ピカソは陶芸で有名な町ヴァロリスで、ジャクリーヌ・ロックと1953年頃に出会い、以来、彼女が最後のパートナーとして晩年のモデルを務めました。南仏の女性特有の大きな黒い瞳、高い鼻筋、長い首をもつジャクリーヌは、ピカソが理想とした彫刻的な容貌の女性でした。1961年に彼女と正式に再婚し、翌年には終の棲家となるムージャンのノートル=ダム=ド=ヴィにある古城に移り住み、本作品を含む70点以上のジャクリーヌの肖像画を制作しています。帽子を被り、女王のように堂々と椅子に坐るのはまぎれもなくジャクリーヌです。両目を見開き、長い髪をなびかせた横顔と、正面を向き瞑想する顔が結合されています。この顔の二面性は、ジャクリーヌの存在とともに、彼女を凝視する画家ピカソの存在を強く意識させます。ピカソは晩年に老若男女を奔放に描きつつ、老いた自分自身を厳しく注視しました。すなわちこの肖像画は、ジャクリーヌの像であるとともに、ピカソとジャクリーヌ、画家とモデルという二つの分かち難い存在の結合体といえるでしょう。