1954年、73歳の年に、ピカソは南仏にある陶芸の町ヴァロリスでシルヴェット・ダヴィットと出会いました。彼女は長い金髪をこの時代に流行し始めたポニーテールに束ねた、しなやかな体つきの20歳を迎えた頃の美しい娘でした。ピカソに声をかけられた彼女は、恋人に付き添われてアトリエに出向き、翌年まで幾度かモデルをつとめました。すでに大画家として著名であったピカソを前に、シルヴェットは緊張を強いられたに違いありません。この頃、最後の妻となるジャクリーヌとの恋愛関係にあったピカソは、シルヴェットに対しては父親のように接したといわれます。こわばった面持ちのシルヴェットと一定の距離を保ちながら、ピカソは彼女の魅力的な容姿を凝視し、一連のポートレートをキュビスム、新古典主義といった複数のスタイルで自由自在に描きわけました。本作品では、身体の各部分が単純で力強い線で表され、黒、白、グレーのモノトーンに色彩を限定することで、シルヴェットの清廉な顔立ちと、泉から流れ出るような豊かな髪が強調されています。