本作品は、アンボワーズ街にあった娼館のサロンの壁面装飾に含まれた16点のメダイヨンのうちの1点である。ロートレックが壁面装飾を手がけたのは、美術愛好家でもあったこの娼館の女主人に依頼されてのことであったらしい。この壁面装飾は、1914年の第一次大戦後まもなく損傷した状態のまま売却された。
アンボワーズ街の娼館は、18世紀様式の建造物だった。ロートレックは、ある装飾画家とピュヴィス・ド・シャヴァンヌの弟子の一人や室内装飾家の助力を得てこの娼館のサロンの壁に縦約2mほどのパネルを16枚張り、木肌を生かした淡黄色の地の上にロココ調の様式でバラや蔓花や木の葉のモティーフを使った装飾文様を描いた。そして各パネルのほぼ中央に、この娼館にいる娼婦たちの肖像を描き込んだメダイヨンを配置した。ロートレックの友人で美術評論も手がけたモーリス・ジョワイヤンは、ロートレックが彼女たちの人種などからくる容貌の特徴を描きわけていることを称賛している。
本作品に描かれている赤毛の娼婦の名前は明らかではないが、その横顔には妖艶な魅力が漂っている。女性の肖像をメダイヨンで表す手法は、当時の女優や歌手のブロマイドや広告写真などに用いられた装飾的な手法と共通している。室内装飾に組み込まれたこれらのメダイヨンも、娼婦へのオマージュであるとともに、娼家のサロンにやって来るお客たちに娼婦たちを見てもらうという、広告のような役割を担っていたのかもしれない。