花を描いた作品でしばしば花生けとして登場する水差しが、ここでは単独で描かれています。少年期に徒弟として磁器絵付けを学んだルノワールにとって、陶磁器に寄せる親しみは格別なものだったことでしょう。器形を真横からとらえるてらいのない視点、そして器面にあしらわれた花の模様を描き出す要所を心得た筆致は、晩年の作品の特徴を示しています。
身近に置いている水差しの宿す簡素な美にとらえられ、かつての仕事の記憶を反芻(はんすう)しつつ描いたのでしようか。本作品は、職人的な手仕事を自らの出発点として、芸術におけるその重要性を説き続けたルノワールの人生を、端的に物語っています。