椅子に腰掛けた若い女性の後ろにもう一人の女性が寄り添い、髪に花かざりを着けている。当時、ブルジョワ階級の女性が家で過ごす際には、花の髪かざりを着ける習慣があった。同様の髪かざりは座っている女性の手にも見られる。 ルノワールは1890年前後、身づくろいのほかにも、同じ年頃の女性による奏楽や花摘みなどの情景をしばしば描いている。1880年代後半に印象派の描法を脱するべく取り組んだ、アングル流の立体的な裸婦が画商や画家仲間に不評だったことで、ルノワールはこの時期、一般に受け入れられやすい近代生活を描いた、いわゆる風俗画へと向かったのである。しかしこの主題をめぐっては、アントワーヌ・ヴァトーやジャン=オノレ・フラゴナールといった18世紀ロココの画家による、甘美で活き活きとした女性像への憧憬を読み取ることもできる。 人物をはじめとして、室内で重なりあう多様なモティーフがそれぞれ明瞭な輪郭で描き出されているのは、アングルを範として1880年代を通じて追究されたアカデミックな描法の特徴といえる。また、二人の女性像が織り成す垂直方向の線が、背後の長椅子の作る水平線とともに均衡のとれた画面を作り出しており、先立つ印象派の時代と比べて、構図の検討がより入念になされている。