私と村

  • 作家名 マルク・シャガール
  • 制作年 1923-1924年頃
  • 技法・素材 油彩/カンヴァス
  • サイズ 55.5 x 46.1 cm
1923年にロシアからパリに戻ったシャガールは、それ以前に制作した自作の再制作に取り組んだ。というのは、1914年にパリを離れるときにアトリエに残していった作品と、同年にベルリンのシュトルム画廊で開催された個展出品作の大部分が、シャガールの知らぬ間に売却されてしまったからである。彼は再制作することによって、自分の画家としての履歴を取り戻そうとした。本作品もニューヨーク近代美術館所蔵の《私と村》(1911年)を再制作したものである。約3分の1に縮小された寸法の違いに加え、シャガールは質の悪い写真図版にもとづいて描かねばならなかったため、細部までは忠実に写されていない。シュトルム画廊の個展に出品された「原作」は、第一次大戦中は行方不明になっており、1926年にようやくシャガールはこの作品を取り戻すことができたのだった。  《私と村》という題名は、詩人ブレーズ・サンドラールによるものである。この作品は、ロシアの村の生活とそこに暮らす人間と動物の共生を主題としている。「村」には「世界、宇宙、平和」の意味も含まれているといわれている。画家自身と思われる緑色の顔の男は、生命の樹である花咲く枝を持ち、白い牝牛と見つめあっている。両者のあいだにはヴィテブスクの家々と教会、草刈鎌を持つ男や逆さまの女が描かれている。また、画面中央の大小の円は太陽と月を表わしているとされる。シャガールは、さまざまな意味を込めた象徴的なモティーフを平面的な色彩と円、三角形と対角線を基本とする幾何学的構成のなかに配置し、調和させて彼独特の世界―シャガールの宇宙―を創出した。本作品では、原作の画面を単純化することによって主題の本質が強調されて受け継がれている。