12月2日(月)~13日(金)まで臨時休館いたします
岡田三郎助は、6歳で上京し旧佐賀藩主の鍋島直大邸内に身を寄せていたが、そこで同郷の百武兼行の油絵に触れ、洋画に関心をもった。曾山幸彦の塾に入門し研鑚をつんだあと、フランス帰りの黒田清輝と久米桂一郎が指導する天真道場に入門する。1896年(明治29)白馬会の創立に参加するとともに、東京美術学校に新設された西洋画科の助教授に就任し、翌年には西洋画研究の第1回文部省留学生として渡仏、黒田の師ラファエル・コランに学び、帰国後は東京美術学校で多くの後進を育成した。 岡田の作風の特徴は、何よりもその優美で典雅な女性像にあるが、それはコランのもとで培われたといってもよいであろう。彼はコランの代表作《花月(フロレアル)》にみられるような、繊細な筆致と上品な色調を徐々に自己の画風として定着させていった。《紫の調(某婦人の肖像)》(1907年)、《萩》(1908年)などに見られる、女性特有のきめ細かくやわらかな肌合いの表現と、洗練された装飾性を見事に結実させたのが、この《あやめの衣》である。池水に見立てた明るい藍地に白く浮き上がるあやめの模様、それと帯状に配された朱紅色が美しく調和する衣が、本作品の主役である。その衣をまとった後ろ姿の女性は、櫨染調(黄金色)の背景のうえに、油絵具で描かれている。日本の伝統的な美意識と手法が油彩画に導入されており、岡田のあくことのない研究の成果をうかがい知ることができる。