いわゆる「赤富士」をモティーフとした本作品は、晩夏から初秋にかけて富士山が朝日を浴びて赤色に染まる様子を描いています。ポーラ美術館のコレクションを収集した鈴木常司が杉山に依頼して制作した作品で、1993年(平成5)10月20日、84歳の誕生日に亡くなった杉山最後の作品であると考えられています。作品には、名前と「忍野 秋朝」と書いた杉山自身のメモが添えられており、杉山に忍野に泊まりこんで描いてもらったとも言われている作品です。 最晩年とは思えないほど力強い筆は、富士の姿を克明に描きこんでおり、朝日に染まる富士はまわりをとりまく白雲と色彩的に対比されることで一層存在感が強調されています。画面左には特徴的な雲が描きこまれ、現実の忠実な描写にとどまらない杉山独自の作風がここでも発揮されているといえるでしょう