大きく飾り羽を広げ、足を踏み出す孔雀の姿が、画面いっぱいに描かれています。地面など具体的な要素が描かれない背景に対して、孔雀は羽が一枚一枚描写され、一見写実的に描かれているようにみえます。しかし、画面上部で力強い円形を描く飾り羽の形や、同じく飾り羽にみられる緑から青や紫へのグラデーションは、この孔雀が単に写実的に描かれたのではないことを示しています。 本作品の類作である東京国立近代美術館の《孔雀》(1956年)の制作時に、杉山は、特別に孔雀を描こうとしたわけではなく、半円形による空間の構成を試みようとして、たまたま孔雀に思い当たったと語っています。《孔雀》より孔雀本体をクローズアップし、飾り羽の形もより円形に近く描いた本作品においても、孔雀の形態を借りていかに画面を構成するかに心を砕いた杉山の試みがうかがわれます。