透明地に黄色を重ね、細かい黒色ガラス粉末を混入して樹木の葉の繁みを表現し、さらに茶色を被せ、その表面に青紫色に輝くパティネ加工を施している。エッチングによって夕陽に染まる木立を浮き彫りしているが、この種の風景を主題とする花器の製作は、ガレ晩年もしくは歿後まもない頃に多くみられるようである。 本作はグラヴュールによる研磨仕上げが認められないので、生産コストを低めにおさえた製品であったと思われる。だが、パティネによる複雑な色調の付与や、アンテルカレール技法を応用した樹葉のデリケートな表情は、エッチング製品としては例外的に極めて水準が高く、ガレが研磨工程のコストダウンのみを考えてエッチングを使用していた訳ではないことを物語る作例といえるだろう。酸によって溶かされたガラスの肌のとろけるような質感が、独特な風情をこの作品にもたらしているからである。(『名作選』 2007)