透明地に青を重ねた2層被せガラスに、エッチングでアザミを彫刻しエナメル彩と金彩で細部を描いている。とげとげしい表情のこの花は、ロレーヌを侵略したブルゴーニュのシャルル突進公を1477年のナンシーの会戦にて打ち破ったロレーヌ公ルネ2世が、自らの紋章に定めたことで特別な意味を持つようになった。以来「それに触れれば刺される」の格言によって、列強が領有権をめぐって争ったロレーヌの自立を象徴する郷土愛のシンボルとして、普仏戦争(1870-1871年)の敗北により、故郷をドイツに奪われナンシーに逃れてきたドーム家の人々にとっても、格別な意味を持つ花であった。(『名作選』 2007)