1885年、ルノワールは長男ピエールの誕生を機に、妻アリーヌの故郷であるエッソワを初めて訪れている。シャンパーニュ地方の豊かな自然を背景に、農村の慎ましい暮らしの息づいたこの町をルノワールはすっかり気に入り、その後、最晩年に至るまで毎年のように滞在して一時を過ごすようになる。
ルノワールが60歳を迎える1901年の滞在時に制作されたと考えられる本作品でも、早朝の仕事に出た土地の農民たちの姿が点景で描かれており、画面に活気を添えている。ひときわ目を引くのは、田舎道の両脇に立つ木々である。前景右に見られるように、幹は緩やかなカーブを描き、葉を茂らせた梢は、この時期の作を特徴づける暈(ぼか)すようなやわらかい筆致で描かれている。豊かな詩情を伝えるこうした木の表現には、ルノワールが敬意を示してやまなかったコローとの類似をみることもできよう。
木々のうねるような連なりは、土地の起伏を示すとともに、風景の奥行きを表しており、観る者の目は木の梢と道の影が作り出す心地よい形のリズムとともに、画面の手前から奥へと自然に誘われる。先立つ1890年代、ルノワールは古典絵画の研究を深め、構図と造形の堅固さはいっそう増すことになるが、本作品にもまたその成果を見ることができる。