イタリアのトスカーナ地方のユダヤ系の家庭に生まれたモディリアーニは、1906年にパリにやって来た。彼はパリで、セザンヌとピカソの絵画に触れる。また、彫刻家ブランクーシと出会い、彼のアトリエがあるモンパルナスに移り住んで彫刻に取り組んだ。彼は1909年から1916年まで、ギリシアのアルカイク彫刻や、アフリカの仮面に影響を受けた彫刻を制作するが、石彫による粉塵や過労で健康を害し、彫刻制作から遠ざかった。1916年以降は絵画に専念し、それまでの彫刻制作の影響がうかがえる、丸みを帯びた幾何学的な形態と輪郭線によって、モンパルナスの友人たちの肖像や裸婦を描いた。 本作品のモデルは、「C.D.夫人」としか伝えられておらず、詳細は明らかにされていない。前髪を垂らした女性像を、モディリアーニはほかにも描いており、当時の流行の髪型だっことがうかがえる。この女性の身体は少し右側に傾き、丸い肩、細長い首、卵型の顔にアーモンド形の眼など、モディリアーニの女性の肖像画の特徴を明確に示している。その中でも大きな黒い瞳が、この女性の個性を際立たせている。背景の灰色は、女性の顔の側面や鼻筋の影にも使われており、人物像と背景が乖離することなく、画面全体が調和するよう配慮されている。