髪をすく裸婦

  • 作家名 イポリート・プティジャン
  • 制作年 1903年
  • 技法・素材 油彩/カンヴァス
  • サイズ 81.7 x 54.5 cm
自然のなかに佇む裸婦は、プティジャンが生涯にわたって描き続けた主題である。パリの国立美術学校でアレクサンドル・カバネルの教室に学んだプティジャンは、その後すぐに、装飾美術学校に入学している。その時期に、19世紀後半を代表する装飾画家、ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌに接し、教えを受ける機会を得たことが、プティジャンの画業を方向付けることとなる。プティジャンのピュヴィス・ド・シャヴァンヌへの敬愛は変わることがなく、自邸の家の入り口には、アングルとミレーとともに、その名前が刻み込まれていたという。  プティジャンは1884年にすでにスーラに接していたが、点描技法を本格的に採用し、新印象派の作家として活動を始めるのは、1890年以降のことである。いちはやくピサロにその能力を評価されるも、それまでと同様に古典的な主題を描き続けたプティジャンは、同時代の情景や未来的なユートピアを描くことの多かった新印象派の中でも、異質な存在であった。1892年の時点で、新印象派の擁護者である批評家のフェリックス・フェネオンは、プティジャンの描く裸婦を指して、「ノスタルジック」であると述べている。それは、当時の前衛をなす描法を採りながらも、プティジャンの主題的関心がピュヴィス・ド・シャヴァンヌの影響下にあったことを示している。  ピュヴィス・ド・シャヴァンヌの作品に通底する静謐と調和は、《髪をすく裸婦》に顕著である。髪を手に水辺に立つ裸婦の姿はきわめて優美な線を描き出し、光を浴びたその肌は白く輝いている。細かな点状の筆触の集合によって描き出された裸婦の体は、大きさや向きの異なる筆触による寒色系を基調とする背景と対比をなしていると同時に、その反映を湛えている。この点に、外光に対するプティジャンの細やかな感覚をうかがうことができる。 (『ボナールの庭、マティスの室内』図録、2009)