本作品では、ドガの学生時代からの友人で普仏戦争従軍の時も同じ砲兵隊に属し、アマチュア画家として印象派展にも出品していたアンリ・ルアールの4番目の息子、美術評論家のルイ・ルアール(1875-1964)とその妻クリスティーヌ(1879-1941)を描いている。ルアール夫人のクリティーヌは、ドガの友人の画家アンリ・ルロルの娘であり、幼い頃からこの二人を知っていた。 庭、または公園のような緑のある場所を背景に、夫婦のくつろいだ表情がとらえられている。肘掛にもたれてゆったりと椅子に座り、夫のほうに振り返る妻と、椅子の背もたれに腕を置き、脚を交差させて座る夫は、会話しているような、ごく自然な様子で描かれている。このように何気ない日常的な場面のなかで人物を描く手法を、ドガは肖像画でしばしば用いた。この二人を描いた作品は、ほかに数点残されているが、すべてパステルで描かれている。(「肖像の100年」図録、2009)