アネモネは、バラやダリアと並んで、ルノワールがもっとも好んで描いた花のひとつです。多様な色彩を帯び、カールした花弁にも見える萼(がく)の部分が並んで丸みを作り出す花の造形を、ルノワールは好んだのでしょう。本作品でも、それらの形態をなぞるような筆致によって、ふっくらとした量感と厚みを感じさせる描写がみられます。色彩についても、背景の青が画面の全体を引きしめつつ、花瓶の文様のコバルトブルーとともに、赤や薄紫に彩られた花の匂い立つような華やかさをいっそう引き立てています。ルノワールが残した日の朝、手助けを借りながら筆を入れたのも、アネモネを描いた作品でした。