〈小さな職人たち〉
フジタがパリで働く貧しい人々に向けたあたたかいまなざしは、〈小さな職人たち〉をはじめとする絵画だけでなく、彼の文章からも感じられる。フジタはその著書『巴里の横顔』(1929年)や『巴里の昼と夜』(1948年)で、パリの街でよくみられる典型的な人物を取りあげ、彼らの特徴について詳しく語っている。そのなかから〈小さな職人たち〉の連作に描かれている職業に触れた言葉を、図版に添えて掲載した。
……そう言えば、町のなかを山羊を連れて乳を売って歩くのもパリらしかったね。モンマルトルやモンルージュの方から、二三十頭もの山羊を連れて町のなかにはいってくるのだが、山羊にはみんな鈴を付けてね。それが、小さい山笛みたようなものを吹く男に追われてトボトボ歩いて来るのだが、その側を電車や自動車が通る、-のんびりした風景ですね。
-『巴里の昼と夜』126頁