アントニー・ヴァラブレーグ(1844-1900)は、詩人であり、美術評論、美術史研究にかかわった人物で、17世紀のフランスの画家ル・ナン兄弟の研究を残している。セザンヌと同じエクス=アン=プロヴァンスの生まれで、エミール・ゾラの友人でもあった。セザンヌとゾラの絶交の原因となったゾラの1886年の小説『制作』には、ヴァラブレーグをモデルにしたと思われる作家も登場する。セザンヌは、この友人の単独の肖像を3点制作しているが、この作品では、1870年代にみられる絵具の厚塗りの人物描写によって、重厚かつ生き生きとした肖像を描き出している。(「肖像の100年」図録、2009)