12月2日(月)~13日(金)まで臨時休館いたします
静物画は西洋絵画の伝統的な画題であり、画家にとってもいかに迫真的な描写ができるのかという自らの技術を示す格好の画題でもあった。宗教画が衰退した17世紀オランダでは、風景画や風俗画と並んで主要な画題であったが、18世紀以降、歴史画や肖像画に比べて、静物画の絵画におけるジャンルの地位は低くみなされていた。この地位を引き上げるのに大きな役割を果たし、革新をもたらしたのがセザンヌである。セザンヌは絵画的な統一性をつくりだすために、多視点からの空間表現やカンヴァスの平面性を強調して3次元の空間を2次元に置き換えるなど、あえて自然主義的な空間表現を放棄しようとした。このような作品は、20世紀に入ると若い画家たちによりその先進性が認められ、キュビスムにおいても静物画は重要かつ実験的な画題となった。 本作品でもセザンヌがもたらした革新がみられる。ここにはそれまでの絵画にみられるような確固とした土台の上に積み上げられ、固定された構図はない。左端の山のように盛り上がる布によって斜面が強調された机―実際は水平なのだろうが―の上で、果物は皿から転がり落ちている。画面中央では、存在感を放つ砂糖壺が傾斜した机の支点を押さえ込むことで均衡をはかっている。果物は画面からこぼれ落ちそうな危うさを残しながら、重力に従うのではなく計算された構図によって、かろうじてその場所にとどまっている。本作品は、絵画が目に見える世界の忠実な再現ではなく、人工的な構築物であることを思い起こさせる。(『ピカソ 5つのテーマ』図録、2006)