母仔馬

  • 作家名 坂本繁二郎
  • 制作年 1960年(昭和35)
  • 技法・素材 油彩/カンヴァス
  • サイズ 45.3 x 52.7 cm
坂本繁二郎は、1902年(明治35)、洋画を勉強する夢を叶えるため、同郷の青木繁とともに上京、小山正太郎の画塾不同舎に入門した。1921年(大正10)には39歳でフランスに留学し、大胆に単純化した色面で対象を再構築する手法を確立した。 1932年(昭和7)の第19回二科展に出品した《放牧三馬》(石橋財団石橋美術館)から《繋馬》(1934年)、《海より上る馬》(1937年、東京国立近代美術館)、そして《壁画下図》(1943年)にいたる馬のシリーズは、いわゆる「馬の坂本」の定評をつくったが、そもそも坂本が馬に魅せられたきっかけはフランス留学時代にまで遡る。滞仏中はパリのアカデミー・コラロッシに学んだが、パリの社会が人工的であり自然が少ないという理由から、しだいにパリ近郊のフォンテーヌブローやフランス北西部のブルターニュ地方へ写生に出かけるようになる。そしてブルターニュの丘で見た、毛並よく金色に輝く馬に感動してから、馬の絵の制作が彼の画業の主流を占めるようになったのである。帰国後は、故郷久留米市にほど近い八女にアトリエを構え、体形と毛色の美しい九州の馬を追い求めた。 坂本が晩年に描いた本作品は、母馬に首を寄せる仔馬の甘えるような表情と、母馬の仔馬に対する慈愛に満ちた面持ちをとらえた心温まる作品である。坂本はこの母仔馬の姿に、幼少の頃より女手ひとつで育ててくれた母歌子と自分との深い愛情を重ね合わせたのかもしれない。画題に加え、そのやわらかい色づかいが、本作品をさらに情感あふれるものにしている。なお、本作品と同じ年に描かれた、ほぼ同構図の《母仔馬》がもう1点存在する。