1900年代初頭を境に、ヴュイヤールの描く室内は明確な変化を示すようになる。本作品は画家のアトリエを描いているが、やや高い視点がとられることで空間の奥行きが表されている。室内は画面奥に描かれた窓から射す穏やかな光に満ち、陰影はもはや画面における重要性を失っており、色彩間のあざやかな対比もみられない。 これらは、ヴュイヤールの光への関心の変容によるものであろう。世紀末の作品では、室内の調度の帯びる色彩が光と影の効果を作り出していたのに対し、本作品では広い空間に等しく降り注ぐ外光が、窓や床、さまざまな調度を彩る白によって表現されている。印象派に通じるこうした光への関心は、同時期のボナールと歩調を同じくしており、19世紀末にナビ派に属していた画家たちが1900年代以降、印象派の描法に関心を寄せ始めたことを示している。 穏やかな光の効果が画面の基調をなしているものの、前景の肘掛椅子に頬杖をつく女と後景にみえる台や机などの調度の位置関係が巧みに図られている点には、ヴュイヤール独特の室内空間の構成をうかがうことができる。