ル・カネの自邸「ル・ボスケ」へと通じる階段の下から、奥に咲き誇るミモザをはじめとした庭の一角が描かれている。濃い黄で描かれたミモザは、右脇の茂みと併せ、萌え出る自然の生命力を豊かに表現している。各部分がそれぞれくっきりと境界を際立たせており、地中海岸の強い光と乾いた空気を感じさせる。いたるところに置かれた赤やオレンジの筆触は、降り注ぐ光のもたらす強い輝きを表している。 ここでも画面の周縁部にモティーフが配され、画面の外へと連続するように中断されて描かれている。しかし、晩年の画面に特徴的な短い筆触は、奥行きの閉じられた構図と相俟って、画面を平面的に統一している。 ヴェルノネで描いた作品にみられるように、ボナールは起伏に富んだ地勢とあるがままの自然を好んだ。弧を描く階段の周りに木々や花々が茂る「ル・ボスケ」の庭は、晩年にいたってもなお変わらぬボナールの嗜好を表している。1942年にマルトを亡くし、町へと下りることもほとんどなくなったという晩年の画家の画面には、本作品を含め、それまでにない頻度で庭が現われるようになる。絶筆となった作品《花咲くアーモンドの木》(1946-1947年、パリ国立近代美術館蔵)もまた、庭に生える最も大きな木を描いている。