12月2日(月)~13日(金)まで臨時休館いたします
第二次大戦中の1940年6月、ドイツ軍の占領が始まるとともにブラックはパリを離れて、フランスとスペインの国境にあるピレネーに避難したが、秋には再びパリに戻った。彼の住居はフランス軍に接収される恐れがあったのだが、画家はそれ以後パリを離れることはなく、ひっそりと暮らしていた。この戦争は、ブラックに精神的な閉塞感をもたらし、それは制作にも反映された。画家は風景画を制作することはなくなり、もっぱらメランコリックな室内画―ベッドルーム、キッチン、アトリエ、居間、バスルーム―が1941年から1945年の間に描かれることになる。 本作品はブラックが戦争時に描いた最も大きな室内画のうちの1点である。画面は彼の静物画に何度も登場するなじみのモティーフである四角いテーブル、椅子、植木、パレット、グラス、果物によって構成されている。柱や羽目板、椅子が作り出す平行線は画面に心地よいリズムと秩序を与え、ゆるやかな曲線を帯びたテーブルクロスや植物、パレットと響きあう。色彩は抑制され、室内空間全体の調和が追究されている。この特徴的な正方形のカンヴァスは、画面構成が困難であるものの、左右の空間を切り詰めることで、力強く緊密な画面を作り出すものとして、ブラックがときおり取り組んだ形式である。本作品を描いた翌年、ブラックはほぼ同じ構図の《パレットのある大きな室内》(1942年、メニル・コレクション蔵)を制作している。この作品では、当館収蔵作品と同じ構図の上に、ユリの葉のかたちに似たイーゼル上部の飾りが、半透明の影となって重ねられている。(『ピカソ 5つのテーマ』図録、2006)