12月2日(月)~13日(金)まで臨時休館いたします
ゴーガンは、1891年に初めてタヒチへ渡った。それは画家が暮らす文明社会ではすでに失われてしまったかつての人間の営みと精神を、タヒチで見出す心の旅路でもあった。強く憧れていた南国の地で、画家は鮮やかな色彩を呈する風景、島特有のさまざまな生活の場面、人間、動物たちの姿を捉えていった。本作品では、植物だけを材料に組み立てられた伝統的な小屋が、柔らかい質感と目の醒めるような橙色で表現され、その隣には、村人たちが大地に腰掛けておしゃべりする光景が添えられている。ゴーガン特有の緑を主調にして斜めに平行に置かれた筆致が画面の大部分を覆っているのだが、その傾いだ色とりどりの筆致は、はるかなる山裾から集落までを駆け抜ける風にそよぐ草木のざわめきを表わし、この土地固有の空気の流れと輝きを伝えている。前景には、一匹の黒い犬が頭を垂れ、大地に繁茂する植物とともに、集落の風景に比べてより写実的に描写されている。そこには新天地の大地を踏みしめ、タヒチの人々から距離を置きつつ観察するゴーガンの姿を投影することができるかもしれない。ゴーガンは、この第一次タヒチ滞在ののち、いったんは帰国するものの1895年に再び渡航し、1901年にタヒチよりもさらに故国から離れたマルキーズ諸島のドミニク島(現ヒヴァ=オア島)に到着するのだが、1903年、彼の地で生涯にわたった長い旅路を終えた。(『アンリ・ルソー:パリの空の下で』図録、2010年)