ボナールは1909年、南仏サン=トロペを訪れ、陽光に魅せられた。それから彼は毎年、サン=トロペ、カンヌ、アンティーブなどで制作するようになる。1926年には、カンヌの北に位置する小さな町ル・カネの、カンヌと地中海を見渡せる丘の上に家を購入した。「ル・ボスケ」(茂み)と呼ばれたこの別荘は、パリのアトリエやヴェルノネの別荘などとともにボナールの重要な制作の地となった。第二次大戦が勃発した1939年より、ボナールはル・カネに定住し、この地で妻マルトと愛犬とともにひっそりと暮らし、絵画制作を続けた。1942年にマルトが他界し、1947年にボナールもこの地で歿した。南仏によくみられるミモザの花の黄色であふれた≪ミモザのある階段≫を描いた風景であるが、美術評論家クレメント・グリーンバーグは、本作品を「抽象絵画のようである」と評した。(『モネと画家たちの旅』図録、2007)