水のなかでたたずむ裸婦のみせる恥じらいのポーズは、古来、アフロディーテの表象などに伝統的にみられます。ルノワールは、若き日よりルーヴル美術館に通っていたほか、 1880 年代前半のイタリア滞在により、裸体表現の伝統に深く通じていたと考えられます。
ここでは、裸婦の背景を水面が覆い尽くす、大胆な画面構成がとられています。裸婦の身体には丹念に筆致が重ねられ、陰影とハイライトにより量感が作り出されています。それに対し、水面には光のきらめきや反映を表わす黄や赤、白の筆触が横方向に並置されており、違いはあきらかです。古典美術を参照しつつ、明瞭な形態と量感をそなえた裸体表現を追究しようとする意図が表われています。