山羊と遊ぶ子供たち

  • 作家名 ピエール・ボナール
  • 制作年 1899年頃
  • 技法・素材 油彩/カンヴァス
  • サイズ 167.8 x 129.7 cm
ボナールの家族は、フランス南東部、グルノーブル近郊の村、ル・グラン=ランに邸宅を持ち、夏を過ごすことを常としていた。両作品の舞台となっている果樹園「ル・クロ」は邸宅と同じ敷地にあり、家族はりんごやプラムの収穫を楽しんだ。描かれているのは、妹のアンドレと音楽家クロード・テラスの子どもたちで、この時期から1900年代初頭の作品にしばしば現われることとなる。両作品とも、奥行きを表す地平線が枝によって一部隠されており、緑の色面の上を曲線的な筆触が連なる、装飾性に富んだ画面が構成されている。近い時期に同主題を描いた《大きな庭》(1895/1896年、オルセー美術館)や《りんごつみ》(1895/1899年、ヴァージニア美術館)と比べ、平面性と装飾性が際立っており、大きさもほぼ同じこの二点は、同一の装飾パネルを構成すべく制作されたと考えられる。ボナールが庭をモティーフとした初期の作例には、《庭の中の女》(1891年、オルセー美術館蔵)や《坐る娘と兎》(1891年、国立西洋美術館蔵)、《薄暮(クロケットゲーム)》(1892年、オルセー美術館蔵)が挙げられる。この時期はボナールがナビ派の一員として活動していた時期であり、庭の芝生や茂み、木々の梢などが曲線的な筆触の反復で表されつつ、平面的に処理されている点が特徴である。植物という曲線的な要素に満ち、緑の色面として扱いやすい庭は、ナビ派時代のボナールがもっていた装飾パネルへの志向に適した主題だった。1890年代後半に制作された両作品にも、その余韻は響いている。この後、平面的で装飾性に富んだ庭の情景はみられないが、果物の収穫、および人間と動物との交わる光景は、とりわけ大画面の作品の主題として、1900年以降もしばしば現われることとなる。「ボナールの庭」は、都市を離れた果樹園としての側面と、自然に親しみ、動物と交わる理想郷としての側面をそなえた、この「ル・クロ」に始まる。