中国風景

  • 作家名 安井曾太郎
  • 制作年 1944年(昭和19)
  • 技法・素材 油彩/カンヴァス
  • サイズ 60.5 x 72.7 cm
京都に生まれた安井曾太郎は、1904年(明治37)から聖護院洋画研究所(後の関西美術院)で本格的に絵画の勉強をはじめた。1907年(明治40)に渡仏し、アカデミー・ジュリアンで学びながら、ルノワールやセザンヌなど、当時のフランス画壇に多大な影響を受けた。帰国後は油絵具で日本の風景を表現することの難しさに悩み、しばらく模索の時期を過ごすが、まもなく真摯な探究が実を結び、強調された形態と、あざやかな色彩のコントラストによって対象を生き生きととらえる独自の描法を確立する。代表作《金蓉》(1934年、東京国立近代美術館)にはその特徴が表われている。 1937年(昭和12)から数回、安井は満州国美術展の審査のため中国を訪れている。中国風景を描いた本作品は、1944年(昭和19)の新京、北京旅行の際に描かれたものである。抜けるような晴天、廟の淡紅色の壁、そして黄色の屋根の色彩のコントラストがあざやかである。彼は中国の風景を数点描いているが、本作品にはそれらと似通った黄と青の対比がみられる。それは1937年の満州旅行のときにすでに発見していた面白みであったらしく、「この寺は、樺黄色の丸木壁で、青空に美しい」と語っている。構図には安井の理知的な配慮が随所にみられる。前景に配された樹木の枝が廟の前庭の広々とした空間を際立たせ、その奥に描かれた建物は、形よりも強烈な色彩のほうが目に飛び込んでくる。まばゆい陽光に照らされると、物は細部を失い色のコントラストだけが残るのだ。躍動感に満ちた筆触や描線は、試行錯誤の末にようやく到達した表現方法であった。