イラン高原を行く

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会場:バックヤード
  • 作家名 平山郁夫
  • 制作年 1995年(平成7)
  • 技法・素材 紙本彩色/額装
  • サイズ 170.0 x 360.0 cm
かねてよりシルクロードから中東にかけての国々に強い関心を抱いていた平山郁夫は、1995年(平成7)5月、イラン文化省より招待され同国を訪問した。帰国後すぐに制作にとりかかり、この大作を仕上げた平山は、本作品を同年9月の第80回院展に出品した。また、ユネスコ特別顧問に就任したのも、同じ年のことであった。  4枚のパネルを貼り合わせた横長の画面には、イラン高原を進むラクダの隊列が描かれている。厳しい気候の砂漠地帯を静かに進む隊列は、複数のラクダとロバで構成されている。地面に落ちる長い影から、日が傾いた夕刻の風景であることがわかる。手前でロバに乗る女性は、膝に子どもを抱き、親しげにこちらを見ている。その表情からは、この絵を描いている平山との温かな交流が想像できる。画面の右から左へとゆっくりと歩みを進める隊列は、画面に時間の流れを与えており、しばらくすると彼らが遠くへ去っていくことを暗示している。ラクダの背の連なりは、遠くの山脈と同じようになだらかな形をしており、延々と続いていく砂漠の情景を感じさせる。このように画家は、巧みな構成力により、この大画面を精緻な描写でまとめあげているのである。  人々の暮らしに注がれる平山の慈愛に満ちたまなざしは、その後のユネスコ世界遺産保存運動へと発展していった。日本文化の「源流遡行」と表現されるシルクロードへの興味は、エキゾチスムに陥ることなく、芸術が人類共通の財産であるという思想へと昇華されていったのである。