杉山は50代の頃から、エジプト、ギリシア、トルコなどへ取材旅行を重ね、印象的なモティーフや民族衣装をまとった女性を描いた作品を多く制作しました。本作品も1988年(昭和63)にインド北部のラジャスタン地方への旅行をもとに描かれました。きらめく水のなかを歩く2頭の水牛と、その上に乗るパンジャビドレスという民族衣装を着た少女は、画面上部で十字を描くように配されています。当時の制作風景を収めた映像によると、杉山は、作品の少女と同じ衣装とアクセサリーを身につけ、水牛に見立てた台に座った孫娘をモデルに作品を制作したようです。本作品は、1992年(平成4)に「杉山寧の世界 作品と素描」展で発表された、杉山最後の大作です。展覧会終了後、作家の手元に戻ってから何度か加筆されたというエピソードは、全てにおいて完璧を目指した作家の制作に対する飽くなき追究を物語っています。