1900年冬に、モネは息子ミシェルが留学していた英国のロンドンに滞在し、「国会議事堂」の連作を描き始めました。その翌年の冬にも同地に滞在して描きつづけ、その後ジヴェルニーのアトリエで仕上げ、1904年のデュラン=リュエル画廊の個展で発表しました。モネは、議事堂の真東に位置するセント・トーマス病院のテラスからこの風景を描いています。夕陽の逆光によって議事堂は青いシルエットとなって浮び上がり、さらにテムズ河にその影を落としています。テムズの水面にたち込めた霧の揺らぎが、建物の細部や輪郭を曖昧にしています。国会議事堂、霧、テムズ河という要素はまさにロンドンを象徴するものですが、なかでも霧が創り出す複雑な光の効果がモネの心をとらえました。「霧なしではロンドンは美しい町ではありえないでしょう。…[中略]…その整然とした、重々しい街並みは、この神秘的なマントのなかで壮麗になるのです」。