ライオンのいるジャングル

  • 作家名 アンリ・ルソー
  • 制作年 1904年
  • 技法・素材 油彩/カンヴァス
  • サイズ 37.7 x 45.9 cm
嵐のなか牙をむき出しに挑みかかろうとする虎を描いた大作《不意打ち!虎のいる熱帯の嵐》(1891年、ロンドン、ナショナル・ギャラリー蔵)はルソーの初めてのジャングル画として知られる。ルソーはこの脅威の完成度を誇る作品をサロン・デ・ザンデパンダンに発表するのだが、のちにナビ派の一員となる若いスイス人画家フェリックス・ヴァロットンが好評をローザンヌの地方紙に寄せるのみで、たちまち批判の渦に呑み込まれた。ジャングル画の制作は一端途切れ、7年ほどのブランクが生じた。本作品は《不意打ち!虎のいる熱帯の嵐》の3分の1程度のサイズで、横向きの猛獣を中心とした同じ構図を踏襲している。密林を舞台にヴァリエーション豊かに表現することができるルソーの技量に感服させられる一点である。青い月夜のジャングルに野獣は静かに鎮座している。ライオンとも豹ともとれる動物の姿は、ルソーが図版やパリ市内に散見された動物彫刻を参照したようだ。野獣の獰猛さをそぎ落とし、高貴なまでに端正な姿が抽出され、滑らかな輪郭線を月の光がやさしく撫でている。中景には多種多様な植物のシルエットが、複雑な濃淡の模様を浮き上がらせ、手前には剣のように鋭く葉を伸ばす植物が、月と同質の冷たい光を妖しく放っている。背景、中景、前景を緻密な構成により織物のように組み合わせることで、ルソーは、比較的小さなカンヴァスに、果てしなく拡がるジャングルの壮観を封じ込めている。(『アンリ・ルソー:パリの空の下で』図録、2010年)