本作品に描かれた女性は、1882年のサロンに出品されたマネ晩年の傑作《春(ジャンヌ・ドマルシー)》(1882年、ポール・ゲッティ美術館、ロサンゼルス)でも横顔で描かれた若い女優ジャンヌ・ドマルシーである。《春》は、マネの友人の美術批評家アントナン・プルーストの注文制作による四季の寓意の1点であった。この作品でも、ジャンヌの横顔にみられる女性の華やかな美しさと優美さ、活き活きとした生命感が、カンヴァスの上に明るい色彩のパステルによって描き出されている。マネは、1870年代末から歿するまでに90点近くのパステル画を残しているが、そのうち70点以上が女性の胸像であった。油彩よりも色彩が明るく、なめらかでマットな画肌を作り出すことができるパステルは、女性のやわらかな肌の表現に適しており、マネも意識して用いたと思われる。 ジャンヌは、この頃マネが借りていた、スウェーデン人画家オットー・ローゼンの温室アトリエにあったベンチに街着を着て座っている。この温室でマネは、2点の油彩画を制作しているが、いずれも1879年制作とされている。しかしながら、《春》と構図や周囲の植物の表現が似ていることから、制作年は1881年頃とも考えられる。なお、本作品は1883年にパリ国立美術学校で開催されたマネ歿後の大回顧展に出品された。