杉山寧は1962年(昭和37年)にエジプトを旅行し、翌年の日展にはエジプトをモティーフとした作品を多く出品しています。この作品《水》は、その旅行から3年後に制作され、第8回日展に出品されました。横2メートルにもおよぶ画面は、全体が砂漠の国エジプトを思わせるザラザラとした絵肌で仕上げられており、杉山寧はこの特殊な質感を実現するために、伝統的な日本画で用いる絹本や紙ではなく、洋画に用いる麻布のカンヴァスを支持体に選択しています。水瓶を頭にのせた黒衣の女性の後ろを流れる大きな青い背景はナイル川でしょうか。エジプトの取材の中で見出したものは、巨大なピラミッドやスフィンクスだけではなく、日常を生きる人間の姿だったのです。