12月2日(月)~13日(金)まで臨時休館いたします
高山辰雄の描くモティーフのなかで、もっとも印象に残るのは人物であろう。宇宙にいだかれた人間のイメージは、彼の作画精神を貫いているようだ。この《夜明けの時》は、画家が人の営みに寄せる温かな視線が感じられる作品である。 丸いテーブルにうつぶして眠る女性。腕から背中にかけての曲線と、長い髪が描く曲線は、テーブルの形と呼応している。体型のバランスからみるとかなり腕が長く上半身が大きくみえるが、それにより画面のリズミカルな構成が強まっている。極端に大きくした手などにみられる人体のデフォルメは、高山が敬愛していたゴーガンの影響であろう。微笑を浮かべながら眠る女性は、なにを夢見ているのだろうか。テーブルの上に飾られた薔薇の花、その花瓶にはふたつの人影と大きな木が描かれている。物語の一場面のようにもみえ、この絵が眠る女性の夢を暗示しているようにも思われる。また、背景には何も描かれておらず、室内なのか戸外なのかもわからない。画面全体をゆるやかに包む曲線のイメージは、母胎や宇宙を想像させ、夢見る女性自身がなにか大きなものに包まれているような印象を与える。 本作品が完成された翌年の1973年(昭和48)、ライフワークともいえる「日月星辰」展がはじまった。「日月星辰」展では、森羅万象とそこに抱かれる人間を屏風に描いた大作が数多くならぶ。中国絵画の影響を色濃く示す描法を獲得し、高山はさらに新しい日本画を探究し続けている。