肘掛け椅子に身をゆだねながら真っ直ぐ正面を見据える女性。黒い瞳と赤い唇が凛とした顔立ちを整え、青と黄の二色に塗り分けられた背景の配色と、格子状にすばやくひかれた黒い線が、構築的なリズムを生んでいる。その規則性とは異なる調子で筆をうねらせ、やわらかな質感をたたえる襟巻と腰、途切れながらも微かに輪郭線が示された女性の腕が、画面に流麗な動きを与えている。幾何学的な色面を背景に、のびやかな女性像をこの上なくシンプルに表すマティスの試みは、バーンズ財団に依頼された大画面の壁画《ダンス》(1932-1933年)など、1930年代に始まる。 本作品においては、マティスはカンヴァスの全体を把握しつつ、色と線の諸要素からなる構図を緻密に組み立て、即興的な筆致で調えていく技を発揮している。画家は生涯にわたり多くの女性像に取り組み、その構図法を追究した。「構図は画家が自分の感情を表現する為に配置するさまざまの要素を装飾的な仕方で調える技である」と画家は語る。モデルの身体、顔立ち、衣服を見つめて惹き起こされた画家自身の感情が、この女性像にも率直に映し出されているのである。