1937年、デュフィは横幅60メートルの巨大な壁画《電気の精》(パリ市近代美術館蔵)を完成させた。あざやかな色彩と、自由闊達な筆で「色彩の魔術師」と讃えられたデュフィは、同年にパリのパノラマを描いた屏風仕立ての本作品でも、色彩と線の豊かな表現を際立たせている。空には月と太陽が同居し、青と黄色に大気を色付け、パリの街をバラ色に染めている。街並みに輪郭を与えるリズム感あふれる直線が、理知的でモダンな印象を与える一方、4本の大きなバラの柔らかな曲線は優雅な表情をみせている。 デュフィは装飾芸術の分野において高い評価を得て、1920年代から30年代にかけて、パリの風景をテーマに、壁画、タペストリーなどの装飾を手がけている。パリ風景の作品群のなかで、本作品に描かれたエッフェル塔や、バラのモティーフはいっそう明確かつ大胆に表現されている。タペストリーのための大きな構図に取り組むかたわら、デュフィはエッフェル塔、凱旋門などの建造物を個別に意匠化したテキスタイルを制作していた。彼の人生のシンボルであるバラの花も、テキスタイルのデザインに欠かせないモティーフであった。本作品は、デュフィが装飾の分野で手がけたパリ風景とバラをテーマにした一連の仕事と、フォーヴィスムの時代に培った色彩の集大成といえよう。