ノルマンディーのサン=タドレスは、ル・アーヴルの北に位置するセーヌ河口の漁村で、1820年代にイギリス人に人気を博した観光地となった。コロー、ヨンキント、モネなどもこの地を訪れ、制作を行なっている。ル・アーヴル生まれのデュフィにとって、故郷の海の風景は重要な主題だった。「オンフルールは私にとって絵画が生まれる故郷でした。……後に私がサン=タドレスの美しさに感動したのと同様にです。……若かった私にとって画家としての適正を教えてくれたのはこの景観だったのです。」デュフィは、若い頃からサン=タドレスを描いているが、晩年の重要な連作「黒い貨物船」の舞台にもなった地である。入り江の周辺に建ちならぶスレート葺きの屋根の家々や、浜辺で憩う女神のような大きな裸婦たちの姿が、軽やかな線で描かれている。(『モネと画家たちの旅』図録、2007)