フランス西部ペイ・ド・ラ・ロワールのヴァンデ県レ・サーブル・ドロンヌは、大西洋に面する漁港と「ヨーロッパでもっとも美しい砂浜」と呼ばれる3km続く砂浜が有名な観光地。1866年には鉄道が開通、パリから大勢の人々がやって来た。シニャックは、海から少し奥まった漁港の周辺の光景を描いている。画面右にみられる、ラ・ショームの岸辺に建つアランデルの塔は、現在は灯台になっているが、サン=クレール城と呼ばれた中世の城で、城塞とされていた時期もあった。シニャックは、戸外で水彩による風景画を多く制作した。彼が「油彩をきびしい闘いとすれば、水彩は気楽な戯れだ」と語るように、のびのびとした線、大まかな点描で置かれた色彩による即興的な作品は、軽やかな躍動感にあふれている。(『モネと画家たちの旅』図録、2007)