ピカソほど女性のモデルにインスピレーションを受け、次々と新しい様式を開拓していった画家はいないでしょう。パリで開催された万国博覧会のために、巨大な壁画《ゲルニカ》(1937年、プラド美術館蔵、レイナ・ソフィア芸術センター寄託)を発表した直後の作品です。ピカソは、恋人のドラ・マールを伴い、友人でシュルレアリストの詩人ポール・エリュアール、その妻ヌッシュらが滞在する、南仏カンヌ近郊の村ムージャンで夏のヴァカンスを過ごしました。本作品に描かれている瓜実型の顔、褐色の巻き毛は、モデルがヌッシュであることを示しています。力強く花束を差し出すヌッシュの姿は、南仏の黄色い陽光がふりそそぐもとで強烈な色彩を放ち、太陽、花売りの民族衣装、笠などは、菱形、四角といった単純な形態へと一様に変形されています。正面と横からとらえられた顔、誇張された手の表現は、同年の春に制作された《ゲルニカ》や「泣く女」のシリーズの女性像にもみられます。