パリのルーヴル美術館で、レンブラントやクールベの芸術に触れて以来、スーティンはすっかり過去の偉大な巨匠たちの絵画の虜になった。この少女像の絵具をいく重にも塗り重ねて肉付けする描法と、スカートをたくし上げるポーズも、レンブラントの《水浴の女》(1665年、ロンドン・ナショナル・ギャラリー)に倣っている。並外れた色彩感覚をもつスーティンは、あざやかな肌色と暗い背景色、赤と青の対比が、彼の人物画に強烈な輝きと存在感をもたらすことに気がついたのであろう。1920年代末に画家はおなじ描き方で、ホテルの支配人や支援者の一人マドレーヌ・カスタン夫人の肖像など、卓越した人物画を制作している。スーティンのモデルの多くは、子どもや労働者階級の無名の人物であるが、堂々と正面を見据えるこの幼い少女の姿勢とまなざしは、怯えと挑発の相反する感情をたたえ、迫真の人物描写となっている。